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就労移行支援事業所の開業・立ち上げを検討している皆様の中には、「就労移行支援を開業するにはどうすればいいの?」や「事業所を立ち上げるための条件や必要な資格は何?」などといったお悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、就労移行支援の事業所を開業するまでの流れや、立ち上げに必要な資格、就労移行支援の市場の動向などについてご紹介していきます。
就労移行支援とは?
就労移行支援とは、障害のある方が一般企業へ就職できるように、就職に必要な知識やスキル向上のためのサポートを行う障害福祉サービスです。
利用者ごとの就労移行支援の利用期間は原則として2年間です。
利用者はこの2年の間に就職活動の準備、企業インターン、就職活動などを行い、一般企業への就職を目指すのです。
また、就労移行支援では、就職後も原則6ヵ月間、職場定着の支援なども行っています。
就労継続支援A型・B型との違いは?
就労移行支援と就労継続支援A型・B型は、いずれも障害者総合支援法における障害福祉サービスです。
就労移行支援では一般就労に向けて必要な知識やスキルを学ぶ機会を提供するのに対し、就労継続支援A型・B型では就労の機会そのものを提供します。
したがって、就労移行支援では賃金が発生するケースは稀ですが、就労継続支援A型・B型では給与や工賃が発生します。
就労移行支援 | 就労継続支援A型 | 就労移行支援 | |
---|---|---|---|
サービス概要 | 一般就労に向けて必要な知識・スキルを学ぶ機会を提供 | 就労の機会そのものを提供 | |
対象者 | 一般企業での就労を希望する障害がある方 | サポートがあれば雇用契約を結んで就労が可能な障害がある方 | サポートがあっても雇用契約を結んで就労することが困難な障害がある方 |
雇用契約 | なし | あり | なし |
賃金・工賃の有無 | 基本無し | あり(最低賃金以上) | あり(工賃) |
平均月収 | ー | 86,752円
(令和5年度) |
23,053円
(令和5年度) |
年齢制限 | 原則65歳未満 | 原則65歳未満 | なし |
就労移行支援の需要と市場の動向
就労移行支援を立ち上げようと考えている方の中には、就労移行支援の需要や市場の動向が気になっている方もいらっしゃるかもしれません。
就労移行支援の利用実人員数は、2019年より減少傾向にあります。
また、就労移行支援の事業所数についても、2018年より同様に減少の傾向が見られます。
就労移行支援は儲かるの?
厚生労働省の「令和5年度障害福祉サービス等経営実態調査」によると、収入と支出の差を表す収支差率(物価高騰対策・新型コロナウイルス感染症関連の補助金を含む)の全国平均は、2022年度の決算において就労移行支援が「8.4%」、就労継続支援A型が「3.9%」、就労継続支援B型が「5.8%」となっています。
サービス種別 | 収支差率の平均(2022年度決算) |
---|---|
就労移行支援 | 8.4% |
就労継続支援A型 | 3.9% |
就労継続支援B型 | 5.8% |
収支差率とは、事業全体の利益が収益(売上)に対してどれくらいなのかを表す指標です。
収支差率がマイナスの場合は赤字経営だったことを、収支差率がプラスの場合は黒字経営だったことを示します。
また、令和4年度の就労移行支援事業所の収支差率の分布を見ると、多くの事業所の収支差率が0%を上回っています。
収支差率が高水準の事業所も一定数存在することから、就労移行支援は『十分に利益の出る可能性がある事業』と言えるでしょう。
一方で、収支差率が0%を下回る事業所も当然存在するため、安定した事業運営をするためにも、開業前に資金調達計画や損益計画を十分に練り、事業運営の指針となる事業計画書を作成するようにしましょう。
就労移行支援の収益構造
就労移行支援では、サービス提供を行った対価として得る「障害福祉サービスの報酬」が主な収入になります。障害福祉サービスの報酬の構造は、
- 基本報酬
- 加算・減算
に分類することができます。
基本報酬に対して加算や減算の項目を加減した金額を算出し、負担割合に応じてサービス利用者の方と国保連(国民健康保険団体連合会)に対して請求を行うことになります。
就労移行支援では、「1.基本報酬」のベースとなる報酬体系については、基本的に「利用定員数」と「就職後6ヵ月以上の定着率」に応じて報酬が算定されます。
例えば、「就労移行支援サービス費(Ⅰ)一般型」は以下のように単位数が設定されています。
利用者1名が1日利用した場合の単位数 | 就職後6か月以上の定着率 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0割 | 0割超
1割未満 |
1割以上
2割未満 |
2割以上
3割未満 |
3割以上
4割未満 |
4割以上
5割未満 |
5割以上 | ||
利
用 定 員 |
20人以下 | 479単位 | 519単位 | 569単位 | 719単位 | 879単位 | 1,020単位 | 1,210単位 |
21人以上
40人以下 |
432単位 | 466単位 | 524単位 | 649単位 | 743単位 | 881単位 | 1,055単位 | |
41人以上
60人以下 |
413単位 | 446単位 | 515単位 | 614単位 | 711単位 | 857単位 | 1,023単位 | |
61人以上
80人以下 |
387単位 | 418単位 | 494単位 | 562単位 | 664単位 | 816単位 | 968単位 | |
81人以上 | 364単位 | 392単位 | 478単位 | 516単位 | 625単位 | 779単位 | 935単位 |
就職後6か月以上の定着率については、「前々年度・前年度の就労定着数の合計数」を「前々年度・前年度の利用定員数の合計数」で割ることで算出します。
開業から2ヵ年度が経つまでは、原則として就労定着率30%以上40%未満の区分で単位数を算定します。
事業所が属する地域によって1単位ごとに受け取れるお金の単価は決まっており、単位数が増えるほど事業所が受け取れる報酬も多くなるのです。
また、これらの基本報酬とは別で、一定の条件を満たすことで得られる報酬が「加算」、本来満たすべき人員基準や設備基準などを満たさない場合に適用されるのが「減算」になります。
「加算」については、障害福祉サービスごとに様々な種類が存在し、例えば自宅と事業所間の送迎を行った場合に加算される送迎加算や、食事を提供した場合に加算される食事提供体制加算などがあります。
就労移行支援の開業・立ち上げに必要な条件・資格
就労移行支援の経営者になるために持っていなければならない資格はありません。
ただし、就労移行支援を開業・運営していくためには、法人格を有した上で3つの条件を満たしている必要があります。
- 法人格を有している
- 人員基準を満たす
- 設備基準を満たす
- 運営基準を満たす
それぞれ詳しく解説していきます。
条件1:法人格を有している
就労移行支援は個人事業主では運営することができないため、株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人といった法人格を取得する必要があります。
法人形態については、それぞれにメリット・デメリットがあるので、準備できる資金、開業後に運営する中での意思決定のしやすさや資金調達方法の幅広さなどを踏まえて最適な法人格を選ぶようにしましょう。
例えば、株式会社は合同会社と比べると、社会的な信用も高く、株を発行して資金調達ができる一方で、設立までの手続きが多く、設立にかかる費用も高くなります。
条件2:人員基準を満たす
就労移行支援の人員基準には、就労移行支援を開業・運営する上で必要な職種や配置人数が定められています。
例えば、サービス管理責任者は前年度の平均利用者数が60人までは1人以上(うち少なくとも1人は常勤)、利用者数が61人以上の場合は1人(常勤)に加え、61人目以降の利用者に対して40:1以上になるようにサービス管理者を配置しなければなりません。
前年度の利用実績がない場合は、「利用定員の90%を平均利用者数とみなす」などの計算をします。
人員基準を満たさないと事業所を開業することはできず、開業後も基準を満たし続ける必要があります。
満たさない場合は報酬の減額や行政指導につながる場合もあるので注意が必要です。
職種 | 人員基準 |
---|---|
管理者 | 専従で1人以上が必要
(管理上支障がなければ兼務可能) |
サービス管理責任者 | ・前年度の平均利用者が60人以下の場合は常勤で1人以上が必要
・前年度の平均利用者が61人以上の場合は常勤で1人に加えて40:1の割合で人員が必要 |
職業指導員・生活支援員 | 前年度の平均利用者数を10で割った数以上を満たした上で、職業指導員・生活支援員のいずれか1人以上は常勤で配置が必要
(加えて、それぞれ1以上の配置が必要) |
就労支援員 | 常勤換算で前年度の平均利用者数を15で割った数以上の配置が必要 |
条件3:設備基準を満たす
就労移行支援の設備基準には、就労移行支援を開業・運営するにあたって必要な設備や備品が定められています。
開業前に行う指定申請では、設備・備品などの一覧表や建物の平面図などを通して、設備基準をクリアできているかどうかが審査されることになります。
就労移行支援の設備基準に定められている設備や備品は以下の通りです。
設備名 | 設備基準 |
---|---|
訓練・作業室 | ・訓練や作業に支障がない広さにする
・訓練や作業に必要な機械・器具を備える |
相談室 | 室内において話し声が漏れないような工夫をする(仕切りを設けるなど) |
多目的室 | サービス利用者の特性に応じたものにする(支援に支障がなければ相談室との兼用も可能) |
洗面所 | サービス利用者の特性に応じたものにする |
トイレ | サービス利用者の特性に応じたものにする |
上記の表は厚生労働省が定めている基本的な設備基準の内容や考え方になりますが、さらに細かいルールや条件については自治体によって違いが見られるので、物件を決める前に事前に確認できると安心です。
条件4:運営基準を満たす
就労移行支援を運営するためには、サービスの利用にあたっての留意事項や緊急時における対応方法などの運営規程を定めておく必要があります。
定めなければならない運営規程には以下のようなものがあります。
【事業の運営についての重要事項に関する運営規程】
- 事業の目的及び運営の方針
- 従業者の職種、員数及び職務の内容
- 営業日及び営業時間
- 利用定員
- 指定就労移行支援の内容並びに支給決定障害者から受領する費用の種類及びその額
- 通常の事業の実施地域
- サービスの利用に当たっての留意事項
- 緊急時等における対応方法
- 非常災害対策
- 事業の主たる対象とする障害の種類を定めた場合には当該障害の種類
- 虐待の防止のための措置に関する事項
- その他運営に関する重要事項
開業までに対応しなければならない事項も多いため、余裕をもって準備を進めましょう。
就労移行支援の開業・立ち上げに必要な資金
就労移行支援を開業するために必要な資金は、約1,000万円と言われています。
内訳としては、設備・備品購入費や採用費といった開業前にかかるお金と、人件費や家賃・水道光熱費などの開業後にかかるお金の2つに分けられます。
こうした開業・立ち上げのための資金を自己資金だけで準備するのは困難な場合が多いため、金融機関などから借入を行い、資金調達をするケースが多いようです。
必要な資金の内訳について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
就労移行支援の開業・立ち上げの流れ
就労移行支援の開業は以下のようなステップで進めます。
【就労移行支援の開業までのステップ】
- 事業計画書の作成
- 法人設立
- 開業のための資金の調達
- 物件探し・契約
- 従業員の採用
- 物件のリフォーム
- 備品の調達
- 指定申請
- 請求ソフトの手配
- 利用者様の獲得
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ステップ1:事業計画書の作成
事業計画書には、どのような事業を行うのかを示した事業方針や、競合となる事業所に関する情報、収支の見通しなどを記していきます。
事業計画書は、主に指定申請や金融機関から資金を借り入れる際に使用される書類です。
計画の内容が非現実的な場合は、指定申請で開業を認められない可能性や金融機関から融資を受けられない可能性などがあります。
経営者としても、この事業計画を踏まえて事業を運営していくことになるので、できる限り綿密な計画を作成するようにしましょう。
事業計画書の作成方法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ステップ2:法人設立
会社の目的や役員、株主などを決めます。その上で、役員の同意書や定款などの登記に必要な書類を作成していきます。
書類の準備ができたら、書類を管轄の法務局へ提出し、法務局の審査を受けます。無事に審査を通過し、登記に必要な税金を納付できたら手続きは完了です。
税金については、例えば株式会社を設立する場合だと、印紙税や登録免許税などを合わせて20万円前後の費用が発生します。
また、登記手続きにおいては書類の不備がある度に、修正して書類を再提出する必要があります。
何度も法務局に行く時間を確保できない方は、行政書士などの専門家のサポートを受けるとよりスムーズに手続きを進めることができます。
ステップ3:開業のための資金の調達
就労移行支援の開業には、法人設立費、物件準備にかかる費用、内装施工費、人件費などで、一般的に『1,000万円』ほどの資金が必要になります。
一方で、そのすべてを自分の貯蓄だけでカバーできる人は少ないでしょう。
開業に必要な資金を自分の貯蓄だけで準備できない場合は、金融機関などから借り入れを受けるケースが多いです。
就労移行支援の資金調達方法について、 詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ステップ4:物件探し・契約
就労移行支援では、利用定員に対する面積などの設備基準を満たすことができる物件を探す必要があります。
また、設備基準以外にも、現実的に支払い可能な賃料の条件や、サービスを利用する方々がアクセスしやすい立地の条件などを踏まえて物件を探していきます。
物件を探す方法として、インターネットや開業予定地域の不動産会社への相談なども行い、幅広く情報を集めましょう。
ステップ5:従業員の採用
就労移行支援として「指定」を受けるためには、人員基準を満たさなければなりません。
そのため、ステップ8にて解説する指定申請を行う前の段階で、求人を行い、従業員を採用しておく必要があります。
就労移行支援で必要な従業員数は、サービス利用定員によって変動するので、事業所の定員数を踏まえて採用人数の目安を決めていきます。
採用方法としては、ハローワークや求人雑誌のほかに、インターネットの求人広告や人材紹介などが存在します。採用に使える費用も踏まえながら採用方法を決めるようにしましょう。
ステップ6:物件のリフォーム
就労移行支援の「設備基準」を満たすために、訓練・作業室や相談室間の仕切りの設置、洗面所やトイレの増設など、必要に応じて物件をリフォームする必要があります。
また、「設備基準」を満たすことができていても、サービスを利用する方にとってより居心地のよい環境になるように、壁紙の張替えなどのリフォームの実施も想定しておく必要があります。
ステップ7:備品の調達
就労移行支援の事業所で働く従業員が使用するものとして、電話やFAX、オフィスデスクやオフィスチェア、パソコンやタブレットなどの通信機器といった備品が必要です。
また、サービスを利用する方々が使用するものとして、筆記用具や机、いす、ティッシュやトイレットペーパーなどの消耗品の準備も必要です。
納品に時間がかかる場合もあるので、計画的に準備を進めていきましょう。
ステップ8:指定申請
就労移行支援を開業するためには、「指定申請」という手続きを行い、管轄の自治体より許認可を得る必要があります。
指定申請手続きでは、各自治体によって定められている必要書類を準備・提出します。
申請書類が受理されてから指定され、開業が可能になるまでの期間は指定権者によって違いはありますが、おおむね1~2か月程度を要します。
また、指定申請の前段階として「事前相談」が必要となるケースもあるので、開業を希望する月の『3か月前〜6か月前』までには一度、管轄の自治体の担当窓口へ相談するようにしましょう。
就労移行支援の指定申請に必要な書類の一覧
就労移行支援を開業する際に必要な書類の例をご紹介します。
【就労移行支援の指定申請書類の例】
- 指定協議事前調査シート
- 事業計画書
- 支援方法・組織体制の内容
- 収支予算書
- 運営規定
- 事業所一覧
- 社会福祉施設等における耐震化状況調査票
- 社会保険及び労働保険の加入状況にかかる確認票
- 法人登記簿謄本
- 誓約書
自治体によって必要な書類が異なる場合もあるので、詳しくは管轄の自治体の窓口やホームページで確認するようにしましょう。
ステップ9:業務支援システムの手配
就労移行支援では、サービス提供の対価を得るために、国保連とサービスを利用した方々へ請求する必要があります。
請求業務をスムーズに行うためにも、サービスを利用する方々の通所管理や送迎管理ができる業務支援ソフトの導入を検討しましょう。
業務支援ソフトの機能としては、サービス提供記録の作成や個別支援計画の管理、利用者への交付書類の管理などが中心で、ほかにも様々な機能があります。
料金や機能の種類はソフトによって異なるため、複数のソフトを比較しながら導入するソフトを決めていきましょう。
ステップ10:サービス利用者の獲得
開業する日が決まったら、開業日に向けて、事業所紹介用のパンフレットや名刺、ホームページなどを作成し、サービスを利用する方々の獲得を目的にした集客を開始しましょう。
集客方法としては、病院や地域の保健所、保健センターなどの関係機関への営業活動やSNSを活用した情報発信、WEB広告などが考えられます。
予算も踏まえながら、可能な範囲で集客活動を実施していきましょう。
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まとめ
ここまで、就労移行支援を開業するまでの流れや、立ち上げに必要な資格、就労移行支援の市場動向などについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
就労移行支援を開業するためには、物件探しから資金調達、従業員の採用までやることがたくさんあり、時間もかかります。まずは開業に向けてやらなければならないことをリストアップし、優先順位をつけた上でスケジュールを立てるところから始めてみるのがおすすめです。
かべなし開業支援では開業までのスケジュール作成のお手伝いも行っておりますので、ぜひお問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
事業者への記録・請求ソフト導入支援経験者や、障害福祉・介護業界に長く携わるメンバーが在籍。障害福祉サービス事業所の開業、経営、日々の運営業務に役立つ情報を発信しています。
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