就労継続支援A型事業所を運営するなかで、利用者から副業について相談された場合、どのように対応すべきか判断に迷うことがあるかもしれません。
利用者の収入アップへの意欲は前向きに捉えたいところですが、事業所としては「認めてよいのか」「何かリスクはないか」を慎重に見極める必要があります。
本記事では、就労継続支援A型事業所における副業について、労働法・障害福祉制度それぞれの視点からみた副業の可否を整理したうえで、自治体によって判断基準が異なる理由、副業対応を誤った場合に事業所が被るリスク、そしてトラブルを防ぐために事業所がすべき具体的な対応について解説します。
就労継続支援A型で利用者の副業は可能?
利用者の副業可否を判断するにあたって、まず押さえておくべきは「労働法」と「障害福祉制度」では副業に対する考え方がまったく異なるという点です。
労働法の視点:原則自由
労働法の観点では、副業・兼業は原則として労働者の自由です。厚生労働省が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においても、労働者が副業・兼業を行うことは、自身のスキルアップや収入増加につながるとして、その普及・促進が掲げられています。
ただし、この「原則自由」という考え方がA型事業所にそのまま当てはまるわけではありません。A型事業所は雇用契約を伴う一方で、「一般就労が困難な方」を対象とする障害福祉サービスとしての性質も併せ持つためです。
障害福祉制度の視点:非常に慎重な判断が必要
一方、障害福祉制度の観点では、副業の扱いは大きく異なります。上述の通り、就労継続支援A型は、「通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である方」を対象とした福祉サービスです。
つまり、副業として他の事業所やサービスで働けるということは、「一般就労が可能な状態にある」とみなされる可能性があるのです。その結果、障害福祉サービスの支給決定が見直され、最悪の場合は支給決定の取り消しに至るケースも考えられます。
このように、労働法上は原則自由であっても、障害福祉制度上は非常に慎重な判断が必要という構造的な矛盾があります。A型事業所における副業対応では、この障害福祉制度上のリスクを優先して考える必要があります。
副業の可否は自治体によって判断基準が異なる
副業対応をさらに複雑にしているのが、自治体(指定権者)によって判断基準が大きく異なる点です。一切の副業を認めない自治体もあれば、利用者の状況や副業の内容を踏まえて条件付きで認める自治体もあり、国が一律の基準を示しているわけではありません。
また、副業の種類によっても扱いが異なる傾向があります。一般企業でのアルバイトのような雇用契約を伴う副業は、「一般就労が可能な状態」とみなされやすく厳しく判断される傾向がある一方、クラウドソーシングなど雇用契約を伴わない形態は、比較的判断が分かれやすい領域です。
このように可否の基準が一様ではないからこそ、自事業所の判断だけで進めるのは難しく、個別のケースごとに自治体へ直接確認することが重要です。
就労継続支援A型で副業対応を誤った場合の事業所のリスク
副業対応を誤った場合や利用者からの相談を黙認・放置した場合、事業所は以下のような深刻なリスクを負うことになります。
①給付費の過誤請求・返還請求
最も直接的なリスクが、給付費の過誤請求です。副業が発覚した場合、当該利用者のサービス利用が要件を満たしていなかったとして、過去に遡って給付費の返還を求められる可能性があります。返還額が大きければ、事業所の経営にも影響を及ぼすことになりかねません。
なお、副業の事実は事業所が把握していたかどうかに関わらず発覚することがあります。市区町村は確定申告書・給与支払報告書・住民税申告書等をもとに利用者の所得を把握しており、クラウドソーシングなどの収入も住民税の申告を通じて把握されるためです。
また、給付費の返還だけでなく、基本報酬そのものが下がるリスクも見落とされがちです。就労継続支援A型の基本報酬は、労働時間や生産活動などの評価点(スコア表)に応じて算定されますが、この評価点には利用者の平均労働時間が関係しています。
副業によって利用者がA型事業所への出勤・作業時間を削れば、事業所全体の平均労働時間が下がり、その結果スコアが下がって基本報酬に影響が及ぶ可能性があります。個人の問題のはずの副業が、事業所全体の収益に影響する点は注意が必要です。
②行政処分・業務停止・指定取消
副業の事実を事業所が知らずに請求していた場合は、単純な過誤請求として過誤調整(取り下げ・再請求)となる可能性があります。しかし、副業を知りながら意図的に隠蔽していたり、自治体からの指導に従わず不適切な運営を繰り返していたりした場合は、悪質な運営(不正請求や不適切な処遇)とみなされ、業務停止や指定取消といった行政処分に発展する恐れがあります。
③利用者との労務トラブル
副業に関する事業所の対応が利用者ごとに異なっていたり、明確な基準がないまま許可・不許可を判断していたりすると、利用者からの不満や事業所と利用者の間での認識のズレが生じやすくなります。こうしたトラブルは利用者との信頼関係を損ない、最終的には退所につながるおそれもあります。
④利用者側の「支給決定取消・退所」
副業の実態が「一般就労が可能な状態」とみなされた場合、事業所側の給付費リスクだけでなく、利用者本人の支給決定が取り消されて退所を求められるケースもあります。
そのような事態になれば、利用者本人は生活基盤や支援の場を失うことになり、事業所は利用者との関係が突然断たれ、定員数や運営体制への影響も無視できません。
就労継続支援A型で利用者の副業トラブルを防ぐために事業所がすべき5つの対応
利用者から副業の相談を受けたときに適切に対応するために、あらかじめ以下の5つについて整備しておくことが重要です。
①就業規則の整備
まず取り組むべきは、就業規則への副業に関する規定の明文化です。就業規則に盛り込むべき主な項目は以下のとおりです。
- 副業・兼業の定義
- 申請・届出の手続き方法
- 許可・不許可の判断基準(健康管理、支援計画との整合性、競業の有無など)
- 違反した場合の取り扱い
A型事業所特有の視点として、利用者の障害特性や体調管理の観点を判断基準に明記しておくことも重要です。
②自治体(指定権者)への事前確認・相談
利用者から副業の相談を受けたら、許可の判断を下す前に、以下の情報を整理した上で必ず自治体に事前確認をしましょう。
- 副業の内容・業種
- 雇用形態(雇用契約あり/なし)
- 想定される労働時間・頻度
また、確認した内容と自治体の回答は必ず記録として残しておくことが重要です。後日「そのような確認はなかった」というトラブルを防ぐためにも、担当者名・確認日時・回答内容をメモし、書面や電子データで保管しましょう。
③利用者・サビ管、必要に応じて主治医を交えた面談
副業希望の背景には、経済的な理由、スキルアップへの意欲、一般就労へのステップアップ希望など、さまざまな理由があります。副業を希望する本当の理由を丁寧にヒアリングすることが適切な支援につながります。
利用者との面談では以下の点を確認・評価します。
- 副業の動機・目的
- 体調面・生活リズムへの影響
- 個別支援計画の目標との整合性
- 必要に応じて主治医の意見書の取得
副業の許可・不許可にかかわらず、面談内容と判断根拠は必ず記録として残しましょう。記録があることで、後日トラブルが生じた際に事業所としての対応の適切さを示すことができます。
なお、面談の中で本人が一般就労を志向していることがわかった場合は、就労移行支援など他の選択肢も含めて本人と話し合うことも一つの視点です。副業の希望を一律に否定するのではなく、利用者の意欲を今後の支援の方向性を考える機会として捉えることも、A型事業所の役割に沿った対応といえます。
④「副業を通じたスキルアップ・一般就労準備」という個別支援計画上の位置づけ
副業が一般就労への移行を見据えた活動であれば、認められる可能性は高くなります。そのため、副業を単なる収入目的の活動としてではなく、「一般就労に向けたスキルアップ・準備」として個別支援計画に明記しておくことが重要です。支援目標との整合性を明確にしておくことで、自治体への説明もしやすくなります。
⑤収入の申告・記録管理体制の整備
無許可の副業は、住民税申告等を通じて発覚するリスクがあります。そのため、事業所側でも利用者の副業の届出内容や収入状況を定期的に確認し、記録として残す体制を整えておくことが望ましいです。日頃から実態を把握しておくことで、無断での副業を早期に発見しやすくなるだけでなく、後日の説明責任を果たす際の根拠にもなります。
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まとめ
就労継続支援A型における利用者の副業は、労働法上は原則自由とされる一方、障害福祉制度上は原則禁止・非常に慎重な判断が必要という、2つの視点の間に構造的なギャップがあります。
さらに副業の可否の判断基準は自治体によって異なるため、思い込みで判断せず個別に確認することが欠かせません。対応を誤れば、給付費の返還請求・行政処分・労務トラブル・利用者本人の支給決定取消といった重大なリスクにつながります。
こうしたリスクを避けるためには、就業規則の整備、自治体への事前確認、利用者面談、個別支援計画への位置づけ、収入管理体制の整備という5つの対応を徹底することが重要です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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