近年、現在居住している自宅の一部や空き家となった実家などを活用して、グループホーム(共同生活援助)を開業するケースが増えています。
しかし、一般的な居住用の建物をグループホームに転用するためには、単に内装をリフォームするだけでは開業できません。自治体(指定権者)から福祉施設としての指定を受けるためには、建築基準法や消防法といった建物のルールから、人員や運営体制に関する厳格な基準まで、複数の要件を同時にクリアする必要があります。
本記事では、自宅を活用してグループホームを開業する際の要件やメリット・デメリット、建築基準法・消防法における注意点などを解説します。
自宅をグループホーム(共同生活援助)にすることはできる?
自宅(一般住宅)を活用してグループホームを開業することは可能です。
自宅を活用することは、物件の購入費用や賃貸する場合にかかる不動産取得費や保証金、毎月の家賃といったコストがかからないため、事業の初期投資リスクを抑えつつ、地域社会へ貢献できる非常に魅力的な選択肢といえます。
ただし、建物の安全性を規定する建築基準法や消防法、自治体が定める指定基準など、福祉施設としての厳しい基準に合わせた用途変更や設備改修が必須となる点には注意が必要です。
自宅兼グループホーム(オーナー同居型)の可否と留意点
「自分が住んでいる自宅の一部をグループホームにしたい(同居型)」というケースも、条件を満たせば可能です。
この際の絶対条件は、「運営者(家族を含む)の居住スペースと、利用者の生活スペースが明確に分離されている」ことです。玄関を分ける、生活動線(廊下や水回りへのアクセス)が交わらないようにするなど、プライバシーと安全を確保する構造が求められます。
ただし、分離の基準は自治体(指定権者)によって解釈やローカルルールが異なるため、自己判断で間取りを変更する前に、図面を持参して自治体へ事前相談を行うことが必須です。
自宅をグループホーム(共同生活援助)にするメリット・デメリット
自宅を活用することにはメリットがある一方で、転用ならではのデメリットも存在します。メリットだけでなく、ハードルとなる点もしっかりと理解した上で計画を進めることが大切です。
自宅をグループホーム(共同生活援助)にするメリット
①初期費用と固定費の削減
最大のメリットは、前の章でもお伝えした通り、物件取得費や毎月の賃料負担がないことによる資金面の安定です。開設直後で入居者が少ない時期でも、家賃負担がないことは運営を続けていく上で大きな安心材料となります。
②地域ネットワークを活用した人材採用と入居者の募集
すでに根付いている人間関係や土地勘を活用できるのは大きな強みです。
人材採用においては、グループホームで食事作りなどを担う世話人は近隣の方が中心となるケースが多いため、町内会のつながりや口コミを通じて信頼できるスタッフを採用しやすくなります。
また入居者の募集においても、地域の病院、安全な夜道、買い物しやすいスーパーなど、地元ならではの生活情報を相談支援事業所(利用者の紹介窓口)へ具体的にアピールできます。
自宅をグループホーム(共同生活援助)にするデメリット
①転用に伴う設備改修の費用負担
自宅を福祉施設に転用するためには、後述する消防設備の設置や物件の構造に合わせた改修工事が必要になります。一般住宅の標準的なリフォームに比べて高額になりやすく、物件によっては数百万円単位の初期投資が発生することもあります。
毎月の家賃負担はなくても、想定外の改修費用によって資金計画が圧迫されるリスクがあるため、事前の正確な見積もりが不可欠です。
②住宅街での開業における近隣住民への丁寧な説明
自宅が住宅街にある場合、開業後にトラブルなく安定した施設運営を行うためには、近隣住民へ取り組みの内容を丁寧に説明し、理解を得るプロセスが必須となります。福祉施設の開業に対して不安や誤解を抱かれる可能性もあるため、事前の説明や丁寧なコミュニケーションを心がけることが大切です。
既存住宅の転用において留意すべき「建築基準法」と「消防法」
自宅をグループホームにするにあたって、留意しなければならないのが建物のルールです。福祉施設としての認可(指定)を受ける前に、まずは自宅を安全に使える状態にしなければなりません。
建築基準法上の用途変更と「寄宿舎」の構造基準
一般住宅(一戸建て)をグループホームとして利用する場合、建築基準法上の用途は「住宅」から「寄宿舎」へと変わります。家族が住むための住宅とは異なり、複数人が共同生活を送る施設となるため、より高い安全性が求められます。
転用する部分の床面積の合計が200㎡を超える場合は、行政へ「用途変更の確認申請」という大掛かりな手続きが必要になります。
また、「200㎡以下で用途変更の申請が不要なケース」であっても、寄宿舎としての構造・安全基準には必ず適合させなければならないため、手続きが不要だからそのまま使えるわけではない点に注意が必要です。
一般住宅を寄宿舎の基準に合わせる際、以下のような改修が必要となるケースが多いです。
- 防火区画の形成:火災の延焼を防ぐため、部屋と廊下の間仕切り壁を天井裏まで不燃材料で塞ぐ、防火戸の設置などが必要となります。ただし、スプリンクラー設置等の代替措置で緩和される場合があるため自治体に確認しましょう。
- 廊下や階段の幅:安全に避難できるよう、一定の幅(両側に居室がある廊下など)が求められ、拡張工事が必要になるケースがあります。
- 採光と換気:居室には、床面積に対して一定割合の窓(自然光が入る面積)が必要です。
消防法に基づく消防設備の設置義務
グループホームは、自力での避難が困難な方が入居する可能性があるため、一般の戸建て住宅よりも厳しい消防基準が適用されます。消防法では、入居する方の障害の程度によって求められる設備が大きく変わります。
【自力避難が困難な方を受け入れる場合】
車椅子を利用する方や重度の知的・精神障害の方など、火災時にスタッフのサポートが必要な方を受け入れる場合、建物の面積に関わらず自動火災報知設備、誘導灯、消火器、スプリンクラー設備の設置が原則として義務付けられます。
【自力避難が可能な方のみを受け入れる場合】
比較的軽度の知的・精神障害の方など、自力避難ができる方を対象とする場合、一般の戸建て住宅を転用する規模であればスプリンクラーの設置は規模や入居者の状態によって免除されるケースが多く、義務はありません。ただし、火災を早期に発見するため、施設全体に連動する自動火災報知設備の設置は義務付けられます。
いずれの場合も、一般住宅には備わっていない本格的な消防設備を導入することになり、設置のための大きな費用が発生します。また、自治体や所轄の消防署によって細かな解釈や指導方針が異なるため、工事を始める前の消防署への事前相談が絶対条件となります。
スプリンクラーを含む消防設備の設置義務や条件について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
グループホーム(共同生活援助)を開業するための基本要件(指定基準)
自宅をグループホームにするためには、建築基準法や消防法と並行して、福祉施設としての指定(開業許可)を受けるための準備も進めなければいけません。自治体から指定を受けるためには、以下の4つの基本要件をすべて満たして申請する必要があります。
法人設立
グループホームは、個人として開業することはできません。そのため、株式会社や合同会社、一般社団法人、NPO法人などの法人格の取得が必要です。また、法人の定款(事業目的)には、障害福祉サービスに関する適切な文言が記載されている必要があります。
人員基準を満たす
安全かつ適切な支援を提供するため、法律で定められた職種と人数を配置します。
施設の責任者である「管理者」、利用者の支援計画を作成する現場のリーダーである「サービス管理責任者(サビ管)」、そして食事の提供や日常生活の援助を行う「世話人・生活支援員」が必要です。また、日中サービス支援型では夜間支援従事者の配置も必須となります。
特にサービス管理責任者は人材確保に時間がかかるケースが多いため、開業目途が立ったら早い段階で採用活動を進めることが重要です。
グループホームの人員配置基準について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
設備基準を満たす
自宅をグループホームに転用する場合、設備基準の要件を正しく把握して遵守する必要があります。
例えば、居室は「収納スペースを除いて7.43平方メートル(約4.5畳)以上」の完全な個室を確保する必要があります。和室は、押し入れなどの収納部分を差し引くと規定の面積を下回るケースもあるため、図面上での有効面積の確認が必要です。
また、入居者全員が食事や団らんを楽しめる共有スペース(居間・食堂)の確保に加え、朝の身支度の混雑を避けるためのトイレや洗面台の増設など、実際の生活動線に配慮した環境づくりも欠かせません。
さらに、受け入れを想定している利用者の障害支援区分や身体状況によっては、バリアフリー対応も必須となります。一般的な戸建て住宅は、玄関の段差や廊下の幅、部屋をまたぐ際の小さな段差など、あらかじめバリアフリーを想定して設計されていないことが多くあります。そのため、通路幅の拡張や段差解消など基準に則った整備が必要です。
バリアフリーを含め、管轄の自治体によっては独自のルールを定めていることもあるため、本格的な改修工事に入る前に、必ず図面を持参して管轄窓口へ事前相談を行うことが大切です。
グループホームの設備基準について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
運営基準を満たす
運営基準とは、利用者に適切かつ質の高いサービスを提供し続けるために、国や自治体が定めた「施設運営のルール・取り決め」のことです。開業時の指定申請では、この運営基準において作成が義務付けられている「運営規程」の提出が必要となります。
運営規程には、事業の目的や方針、定員、緊急時の対応方法、虐待防止に関する事項など様々な情報を記載する必要があります。具体的な必要項目は、各自治体の公式ページに記載があるため開業予定地域の自治体のページを確認しましょう。
グループホームの運営規程について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
自宅をグループホーム(共同生活援助)にする場合の開業ステップ
自宅をグループホームとして開業する際のステップを大きく5つに分けて解説します。
ステップ① 事業計画の策定と自宅の適法性調査
まずはグループホームの中でのサービス形態や利用対象者、定員数など、施設のコンセプトを固め、収支シミュレーションを含めた事業計画を策定します。それと同時に、活用予定の自宅が「用途地域」や「建築基準法」に照らし合わせてグループホームへの転用が可能かどうか、管轄の消防署などに確認して適法性を調査する必要があります。
また、初期費用を抑えるために活用できる各種補助金についても、この段階から条件を調べておきましょう。
グループホームの開業時に活用できる補助金について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ステップ② 法人設立
前述の通り、グループホームは個人では開業することができないため法人設立が必須です。
すでに法人をもっている場合は、定款の事業目的に「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業」といった指定の文言が記載されているかを確認し、必要があれば定款変更の手続きを行います。
ステップ③ 自治体・管轄消防署への事前協議(重要)
グループホームを開業する上で、絶対に省いてはいけない最も重要なステップが事前協議です。図面などの資料を持参し、管轄の自治体および消防署へ直接相談に向かいます。自治体独自のローカルルールや既存の建物の構造に応じた消防設備の設置など、具体的な要件をここで確定させます。
事前協議を行わずに見切り発車で工事を進めてしまうと、要件を満たしておらず後から追加工事・費用が発生する事態になりかねないため注意が必要です。
ステップ④ 改修工事の実施と人員確保
事前の協議で行政および消防の了承を得られたら、図面通りに改修工事をスタートします。
これと同時に進めなければならないのが、スタッフの採用活動です。特に、施設の中核を担うサービス管理責任者(サビ管)や夜間などのサポートを行う夜間支援従事者の確保は思いのほか時間がかかります。改修工事の完了と同時にスタッフが揃っているよう、早めに求人を出すようにしましょう。
ステップ⑤ 指定申請手続きと事業開始
改修工事が完了し、人員体制やマニュアルなどの準備がすべて整ったら、管轄の自治体へ「指定申請」を行います。多くの自治体では、開業予定の1ヶ月〜2ヶ月前までに申請書類を提出する必要があります。無事に審査を通過し、指定書の交付を受けたら開業が可能となります。
グループホームの指定申請の流れや注意点など、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
グループホーム(共同生活援助)の開業をかべなし開業支援がお手伝いします!
グループホーム(共同生活援助)の開業には、半年から1年ほどの準備期間が必要です。
『かべなし開業支援』では、開業に特化した専属アドバイザーが開業までのスケジュール作成や必要な手続きの整理など開業までに必要な様々なサポートを無料で提供しています。
「身近に開業について相談できる人がいない」、「インターネットでの情報収集だけでは抜け漏れがありそうで不安だ」といった悩みをお持ちの方は、ぜひ一度『かべなし開業支援』の資料をご請求ください。
まとめ
自宅や所有する空き家をグループホーム(共同生活援助)として活用することは、物件の取得や家賃などの費用負担を抑えつつ、地域社会への貢献ができる有効な選択肢といえます。
一方で、グループホームとして運用するには基準に則った建物の改修工事などが必要となります。管轄の自治体や消防署への事前相談から改修工事、指定申請の準備を含めると開業までに一定期間かかるため、逆算してスケジュールを立てることが重要です。
グループホームの開業についてお悩みがあれば、ぜひ一度かべなし開業支援にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
開業に関する資料をダウンロード
事業者への記録・請求ソフト導入支援経験者や、障害福祉・介護業界に長く携わるメンバーが在籍。障害福祉サービス事業所の開業、経営、日々の運営業務に役立つ情報を発信しています。





